○さつまぐらし-生活:IT生活

●都会との情報格差 「鹿児島に就職します」 そう言うと、みんな驚いた。 でも、別に心配した人はあんまりいない。 特に師匠たちは「今はインターネットがあるから研究も問題ないよね」という感じで僕を送り出してくれた。 それでもこれから就職しようって人で、田舎にいくというとためらう人もいるのではないかと思う。 本項は、研究者だけにしかあてはあまらないかもしれないけど、田舎と都会の情報格差がどの程度縮まっているのかということを紹介したいと思う。 って言っても、実際には僕がどうしているのかということになる。 駆け出し研究者である僕にとって、情報格差が仮に大きなものであれば、鹿児島に行くことは大きなデメリットになってしまう。これは、鹿児島に限らず他の地方に赴任する人も同じだろう。 もちろん、地方に行ったからといって研究者として大成できないはずはなく、地方でがんばっている一流の学者も数多い。 (それが都会に引き抜かれていってしまうのが残念なところだけど、独法化で引き止めたい研究者には多めの給料を出すとかできるようになるから、今後は少し状況が変わると思う) ただ、都会にいればしなくてもいい苦労をしなければならないということは言える。 僕が鹿児島に来た理由は、実は単純で、実家に近い空港(小松空港)から鹿児島への直行便が出ていたことだ。 飛行機さえ飛んでいればどこにいても、ちょいっと飛行機に乗れば実家に帰れる。 そんな単純な動機だった。 だから、正確に言うと、情報格差とかはあまり気にはしていなかったのだけれども、そういうことを心配する人が多いので、ここでいろいろと実情を公開しておこうと思う。 こういう話って、実際体験しないと書けないことが多い。 ●鹿児島でのコンピューター遍歴 さて、まずは自分がどれだけITに依存しているのかというところから紹介を始めることにする。 僕はコンピューターマニアで、鹿児島にいる間もかなりコンピューターを使った。 普段は、起きてから寝るまでずっとコンピューターで作業している感じだ。論文もこれで書くし、ニュースもこれで見る。知人との連絡のほとんどはメールだ。ちなみに、携帯電話は持ってるけど、あまり使い方が分からないので使いこなしている実感はない。 それ以外にもデータのバックアップを寝ている間に行なったりもさせているので、実際には24時間コンピューターを使っているといっても良いかもしれない。 スケジュール管理にはPDAを使っているし、出張にもノートパソコンを持ち歩いている。それから、サーバーにはLinuxを入れて活用している。 つまり、仕事と趣味の両方でコンピューターを使っているし、様々なコンピューターを用途によって使い分けている。 鹿児島に来て5年になるが、この間、かなりたくさんのコンピューターを使った。 まず、デスクトップだが、1)IBM2)自作のPenguin、3)元から持っていた自作マシン、4)Penguinの2代目(マザー・CPUを交換したもの)、5)現在のサーバー、6)Cubeタイプの6台を使った。 平均で年に1回買っていることになる。ただし、1-4はすでに引退したので、今は自分用のサーバーと学生用のCubeだけが現役で動いている。 ノートパソコンは、主に軽量のものを選んで買っている。これは、1)元から持っていたChandra、2)Let’sNote(トラックパッドのもの)、3)Let’sNote(トラックボールのもの)、4)Dynabook(巨大、師匠から借りたもの)、5)Let’sNote(現在使っているもの)、6)PowerBookG41G(退職が決まってから買ったもの)の6台だ。1と4は事実上自分では使わなかったので、5年間で4台という計算になる。 今現役で稼動しているのは、3-6で、自分では5のLet’sノートを使っているのだが、今はPowerBookに移行しようとしている。 主にスケジュール管理をするPDAについては、1)PalmPilot、2)VisorDelux(2台)、4)VisorEdge、5)Treo60、6)ZaurusSL-C760、7)HPiPaq1920の7台を買った。 結局今は、7のiPaqを使っているが、これはOSがMicrosoftのPocketPCであり、Macとの親和性が高くないうえに使い勝手が悪すぎるのでまた新しいPalmを買おうと思っている。やはり一度Palmを使ってしまうと、PocketPCなんてストレスが多すぎて使えない。おまけに、不安定だ。 そもそも、こんなちっちゃいマシンでマルチタスクなんていらんでしょ。それより処理速度の方が重要だと思う。 さて、こうやって書くと、結構マシンを買い換えている。 これだけのお金をデジタルグッズに投資して、果たしてペイしているのか?ということを考えることがある。 僕が1日10時間パソコンを使っているとすると、1年間で3650時間で、5年間にすると、18250時間になる。 この間の支出は、マシンを1台20万円、PDAを1台3万円とすると、161万円だ。 それで、161万円÷18250時間がデジタルグッズの時間単価だ。 計算してみると、88円。 思ったより安いな。 普通の人は一日1時間とかしか使わないから、はるかに高い買い物になっているはずだ。 ●研究資料 さて、僕は研究者なので、最も心配されるのが論文や本などの研究資料の入手についてだ。 研究資料といえば、まず必要な資料は本だが、これは紀伊国屋・丸善・AmazonなんかがWeb上に書店を出しているのでまったく問題ない。 特にAmazonは都会の店頭で注文しても2週間かかるところが2・3日で本が来るのでとても便利だ。 それでも、本はやっぱり書店で眺めるのが重要だという方、心配する必要はない。 田舎に就職すると都会に出張する機会が結構多いので、そういうときに時間をとれば良い。 都会にいて、普段家と職場を往復するだけの人よりはよっぽどしょっちゅう都会の書店に行くことができるはずだ。 僕は研究者にしては論文を読まずに、フィールドに出て考えるタイプなのだが、それでもやっぱり論文は重要な情報収集方法だ。 出身大学では、論文誌をたくさん購読していて、バックナンバーとかもかなりの量がそろっている。 これが、地方の大学になると雑誌の数が少なかったり、欲しい分野とはちょっと違う雑誌が充実していたりして、なかなか論文を収集することができないのが悩みの種だった。 その状況が、IT化によってがらっと変わっている。 家では、British LibraryのInside Webというサービスと契約していて、論文をインターネット上で検索することができる。検索した論文はたいてい概要を読むことができるから、それで欲しいかどうかある程度判断することも可能だ。そして、この論文が欲しいとなればボタンをぽちっとクリックすれば良い。 24時間以内にFAXしてもらうこともできるし、1週間以内で郵送してもらうこともできる。 いちいちタイトルを書きうつしたりする必要なんてまったくない。 問題はちょっと値段が高いことだが、これも研究費でまかなえるのでそんなに問題はない。 Inside Web、便利そうだけどちょっと高いなー、となれば無料で論文を入手する方法も最近はかなり充実してきた。最近僕もInside Webよりも、電子ジャーナルというものを多用している。 こちらは、図書館とかが契約してくれていて、Web上で検索した論文をPDFで取得することができるというサービスだ。 この数が大学によって大きく異なるのだが、鹿児島大学ぐらい大きな大学になるとそのライブラリもかなりの数になって十分実用になる。 電子ジャーナルはこれからもますます便利になるようなので、まず自分の行き先の大学のライブラリ数を調べてみれば良いと思う。 ●FaceToFaceの関係、研究会 さて、資料はITの進展によって入手することができた。 残る問題は、情報を入手するのは何も紙の資料ばかりではないということである。 研究会や講演会に参加したりして、その後の研究者同士の雑談などで得られる情報も重要であろうという指摘である。 僕もこういう場から得られる情報というのは確かに無視できないものだと思う。 けれども、先の書店と同じようなもので、逆に「あなたは月に何回研究会に参加しますか?」と聞いてみたい。 平均週に1回ペースであれば、まあ多い方だろう。それ以上だったら、「そんな暇あったら研究したら?」と言いたくなる。 もちろん、付き合いで出ざるを得ない人もいるだろうけど、地方にいれば無駄な付き合いは不要なのも良い点だ。 普通の人は月に1回か2回だろう。 それぐらいなら地方からのこのこと出て行けば構わない。 月に1・2回の出張は良い刺激になるし、「せっかく来たのだから」と研究会に求めるレベルも高くなろうというものだ。 僕は若い研究者にとって重要なのは、研究会に出ることではなくて、「現場を知ること」だと思っている。 最先端の理論を知っても、それが何に使えるのか?そういうものに対して一般の人々、現場の人々はどう感じるのかという「直感」を持たなければならないと思う。 最近、メーカーでも開発担当者が直接営業に出向くようにしているところがあるそうだ。その方が、開発サイドが現場のニーズを的確に知ることができるからだそうだ。 また、新入社員研修で大卒の新入社員を現場に出向かせることは以前からずっと行なわれてきている。 すべて、現実社会と自分の仕事の関わりを体で知るために必要なことである。 そういう過程を一切経ていないのが研究者だ。 特に経済や法律の研究者は現実を知らない。 自分たちの研究が人の命に直接かかわっているという責任感が希薄なのだと思う。 経済学者に対する信頼がこれほどまでに低下しているのもその辺りが原因だろう。 せっかく地方にいるのだから、政策の現場をきちんと見ておくことだ。 何十回も研究会で人の話を聞くよりも、自分の目で一回だけ見たことのほうが将来的には生きてくることも多い。 地方地方には、それぞれ特色のある現場がある。 これは地方にいる自分だけの利点である。 ●地方のデメリット さて、ここまでは地方礼賛のような感じになったけど、地方のデメリットと言うのも一応あげておいた方が良い。 僕が鹿児島でもっともストレスを感じているのが雑誌の発売日だ。 僕は月刊誌が結構好きで、毎月心待ちにしている。 しかし、鹿児島では雑誌を発売日に手に入れることができないのだ。 思えば、福井にいたときもそうだった。相方の話では、山口は発売日に手に入るが、海を隔てた福岡はだめなのだそうだ。 いったいなぜこれだけ技術や流通が進歩した今日、発売日に雑誌を手に入れることができないのか? その東京中心の姿勢には腹立ちを通り越して、あきれてしまう。 鹿児島に荷物を届けるのが他より一日多くかかるのなら一日早く発送すれば良い。 そうすれば、印刷所から2日に分けて雑誌を納品してもらえば良いことになるから、倉庫スペースも少なくて済むはずだ。 出版ついでにもう一つ、本についてもやはり不満がないわけではない。 どうしても今日本が欲しいときにはやはりインターネットの書店ではなく、身近に大きな書店があるほうが良い。 実は鹿児島には結構大きな書店があるから問題がないのだが、こういう書店がない地方では大変だろう。 それから、交通が不便なのも問題と言えば問題かもしれない。 どこに行くのにも車になってしまう。 専門で、「省エネのために公共の交通機関を使いましょう」と呼びかけているのに、「終バス、5時半なんですけど?」というのが僕の家の状況だ。 もちろん、都会に出るには飛行機を使うから時間はすごく短いが、お金はかかる。 研究費が十分にない状態ではこれはなかなかにつらい。 家賃が安いから、生活費がかからない分、給料のかなりの部分が交通費に消えてしまう。 地方にいるデメリットってこんなものかもしれない。 読み直してみれば、「何でもストレスだと思えばストレスになってしまうよな」という程度のものでしかないようだ。 結局僕自身は地方に住むことにすごく満足しているし、自分の将来にとっては計り知れないメリットがあると考えているようだ。 この辺は、地方に来て嫌だ嫌だと思って暮らすか、そこで自分がなにをやれるのかを考えて暮らせるのかの違いだと思う。 こういう人生の態度は、将来的に大きな違いとなって出てくるはずだ。